たなさと

バンドを語りたい、ただそれだけ。CDレビューやライブレポなどもするので一応ネタバレ注意

sumikaの片岡健太は人生何周目なのか

f:id:tana-boon:20200514205556j:image

本当なら今日sumikaのライブに行っていたはずなんだ。初のサンプラザホール。ちくしょう。今頃帰ってきて家で余韻に浸りながら盛り上がってるぐらいかなぁ。

せっかくなのでsumikaについて語ってみようかな。というかsumikaの歌詞についてちょっと前から語ろうと思ってた。sumikaってメンバーの人柄とか片岡さんの声とかメロディーとか色々推せるポイントあるけど、歌詞がすごいんだよなー。もちろん、あの人柄の片岡さんが、あのメンバーの演奏で、あの声とメロディーに乗せて歌うからこそなんだけれども。

俺が思う片岡さんの詞の特徴は2つあって、

①さらっと身も蓋もないこと言う
②数学的な具体性がある

この2つで歌詞に深みが出まくってると思う。改めて掘り下げるために歌詞カード全部読み返した。笑 何曲かピックアップして語っていこうと思う。

そうだよ、暇なんだよ。

 

①さらっと身も蓋もないこと言う

片岡さんの歌詞って、「いや、それ言うてまうんかい」てことを普通に歌ってる歌詞が多い気がする。先述の通り、今回たまたまライブがなくなったタイミングで書いてるけど、sumikaの歌詞の「身も蓋もなさ」については少し前から語ろうと思っていた。きっかけは、仕事帰りにシャッフルで出てきて何気なく聴いてた "まいった"。

まいった

まいった

君の写真ばかり掘り返しては
やたら可愛いアイドルと
見比べて下に見てみるものの

改めて聴くとびっくりするわ。何してんねん。やたら可愛いアイドルと比べたらそりゃ下だろうよ。でも、もちろん「アイドルに比べたら全然可愛くねぇなこいつ」ていう歌ではない。そんな子の写真掘り返さんもんね。好きなんよね。手放しでベタ褒めベタ惚れというわけではなく、敢えて少し下げることで自分の片想いを膨らませる表現。巧みだと思う。

これに触発されてsumikaの歌詞を見返してみようと思ったのが今回である。

思えば最大の代表曲 "Lovers" のサビだって

ねえ浮気して ねえ余所見して
ずっとずっと離れぬように

いや浮気はダメでしょうよ。何なんその余裕って感じするよね。ずっと一緒にいるために浮気や余所見を挟む。「他の人を知ってみることでより自分のことを理解し、最終的には自分のところに帰ってきてほしい」という思いを込めることで、『ねえ浮気して』というパワーワードでこんな暖かい曲を作り上げた。改めて天才だわ。

だからその分 "Traveling" みたいながっつり浮気の歌出してきたときは衝撃やったけどな。

何ならこっちには逆に『浮気』という単語は一切出てこない。でもどう考えても浮気の歌。しかも浮気された女性側目線の詞。なんでこんなん書けるん。健太よ。

でも『全然良いと思ってないのに許しちゃう』のはそれこそ "Lovers" のように「最終的には戻ってきてくれる」と信じていたいからなのかも知れないですね。どっちにしろなんでこんなん書けるん。健太よ。なぁ健太よ。

 

他にも "リグレット" の

誰もが羨むような容姿でもない
だけど僕はニットからはみ出ている前髪を見ていれば幸せで

なんかは相手の平凡な感じを敢えて書くことで素朴さやリアリティを上手く添えてるし、

"カルチャーショッカー" なんかでは逆に

踊りもお酒も得意じゃないんだ
できれば読書やお茶がいいのだ
でも君しかいないんだ
僕の瞼の裏に居るのは

と自分の地味さを出してしまうことで相手にめちゃくちゃ惹かれてることを強調している。

リグレット

リグレット

こんな感じで、特に恋愛ソングについて「そんなこと言うてええんかい」みたいな身も蓋もない表現を敢えて投下することで相手を引き立ててるのがすごいなと思う。詩人ですわ。

 

 

②数学的な具体性がある

まぁ数学的というと大袈裟かも知れんが。とりあえず数字を使った曲が多い。

まずは "グライダースライダー" を。sumikaを好きになって最初に歌詞に「おぉ」と思わされた曲。

1サビ終わりの『なぜかはこの曲の後半で教えてやる』で「あーこういう歌詞好き」てなった。sumikaを初めて生で観た2017年のRockin' Radio!で、この曲をリハで演ってた。リハだからワンコーラスで終わって「後半はやらなーいw」て言ってちょけてて、本編始まる前からほっこりしたのを覚えてる。あと去年のツアーではアンプ操作ミスってこの曲の入り失敗してたな笑

この『この曲の後半で教えてやる』の意味は正直未だにどこで教えてくれたのか理解しきれてないんやけど、少なくともこの前後にある数字を使った表現を見ると、曲中に書かれた『僕』の変化の機微が見て取れる気がする。

1番Bメロ

分母をたくさん増やしました
そこからひとつの道だけ選びました
それ以外のものは全部置いてきたよ
だから愛すべき「1」がここにあるよ

大サビ

1分の1じゃなく100分の1を選ぶ人に
なれるように正直に欲望を描いた

迷って捨てた99個の気持ちの分だけ愛し歩いてゆく

自分が選んだ一つ以外のものについて、最初は『全部置いてきた』と言っていたのが、最後は『迷って捨てた』と言っている。これ、たくさん増やした分母の中から一つを選ぶのは一緒なんやけど、最初はそもそも他の選択肢に目を向けていなかったんじゃないかと。だから手をつけることなく『全部置いてきた』。でも、多くの選択肢の中から一つだけを選んで他を切り捨てるのではなく、一旦他の道にも手を出してみる事が必要だと気づいたっていう成長を描いてるんじゃないかと思うんですよね。だから、視野を広げて100個に手を出してみた中から一つを選んだ結果、他の99個は一度手をつけてから手放すことになるから『迷って捨てた』なんじゃないかと。最初はそもそも分母も100個もなかったのかも知れない。

実際、限られた中から決め打ちするよりまずは広い視野で物事を見ろって言われますよね。受験の志望校やら就活の企業やら選ぶときに言われがち。1分の1ならその選択に出会う確率は100%やけど、100分の1なら確率は1%。その確率で行き着いた道って何かの縁ですよね。間違ってない。そういう考えのsumikaなりの伝え方がこの "グライダースライダー" だったんじゃないかなと。

何ならこれ、人生観を歌った曲だと思うけど、恋愛に置き換えてみたら『正直に欲望を描いた』結果『迷って捨てた99個』って "Lovers" でいうところの『浮気』『余所見』なんじゃないかっていう解釈もできそうやな。おもしれー。

まぁ99回浮気したらさすがに愛すべき1にも愛想尽かされますけどね。

 

新譜から "センス・オブ・ワンダー" にも数字に補強されたメッセージ性を感じる。

1000行分もノートに書き込んだ
"やりたい" の先で "なりたい" 自分
なれていますか?

から始まる歌い出し。からの、大サビでは

心配しなくていい
答えはあるぜ
1000行分が導く
進め
1001行目の自分へ

『心配しなくていい』って言ってるってことは、今までの1000行分やってきたことでは結果出てないんだよな多分。実ってなくて不安なんだわ。でも『1000行分が導く』て言われるとそれまでの努力を否定されてる気にはならないし、そこからの『1001行目』ってほんのもうひと踏ん張りやもん。1000もやってこれてたらあと1とか誤差やろ。高々0.1%増しよ。

「今までの努力は無駄じゃないよー」「諦めなければ報われるよー」みたいな歌って吐いて捨てるほどあると思うんやけど、そこに『1000』『1001』っていう数字を入れるだけでこんだけsumika色が出るのはすごいよな。ほんと良いメッセージソングだ。これ聴きながら大学受験勉強したかった。

で、これ、今この流れで考えると『1000行分』の中には "グライダースライダー" の『迷って捨てた99個』も "Lovers" の『浮気』『余所見』も含まれてるんかなとか思わなくもない。どれも今を肯定するために必要だった過程。繋がってる気するよなー。

こんな感じで、片岡さんの歌詞って数字を使うことでメッセージ性や解釈の奥行きに上手く深みを出せてるなぁと思う。

 

他にも、ここまでではなくても数字によってユニークな具体性を生んでる曲は多数。

sara

sara

24時間中7万秒ぐらい考えている

7万秒って時間と分に換算したら19時間26分40秒です。睡眠時間4時間半として起きてる時間全部考えてます。狂気。

 

下弦の月

下弦の月

「おはよう」
テレビの中のキャスターは言うんだよ
僕はまだ30時

寝ろ。

僕は研究室時代に実験で31時半まで起きてたことがあります。

 

新曲の "エンドロール" では『3年5ヶ月』とか言うてるし。もう実体験だろこれ。

こんな感じで、数字の使い方にも注目してみるとより面白いところが見えてくる気がしました。

 

 

以上が片岡さんの詞の魅力に関する俺の考察。声やメロディで掴んで歌詞を聴かせる力も前提としてあるけど、サビでもない部分に何気ないフックがあって、聴いてておぉっと思うところが多いんだよな。

別に哲学的な思考力が見て取れると言うわけではない。でもこういった身も蓋もない表現や具体的な数字の使い方で歌詞にリアリティを出すのがマジで上手いなと思う。人間の心情を描写するにあたって達観してる。売れるべくして売れてると思うよsumikaは。

 

でも最後に一つだけ。今回の2つには当てはまらないんやけど、やっぱり一番上手いこと言ったなと思うのは "Familia" の『唯一の選べる家族』かな。

子供は親を選べないとはよく言うけど、あんまり言うと道徳的にアレやけど親も生まれてくる子供を選べない。祖父母と孫も言わずもがな。そんな中で結婚相手って確かに自分で選択できる唯一の家族だわな。当たり前のことやけど言われないと気づかない。結婚しても気づかんままの人いっぱいいると思う。これに気づいて歌詞に起こせる片岡健太は一体何者なんだ。

 

前身バンドbanbi時代から数えると作詞キャリアは長い方とはいえ、ほんまどう生きてたらこんな詞書けるんでしょうね。もちろんインプットも惜しんでないんやろうけど生まれ持った感性がまずすごいんでしょうね。うだうだ考察したけど多分本人はそんなに大して考えて書いてない可能性も全然あるんよね。センスよね。前世何だったんでしょうね。

sumika、そろそろ次のフルアルバムが待ち構えてると思う。むしろ今回のツアーがフルアルバムのリリースツアーかと思ってたけど、epやったからな。楽しみだ。とりあえず今回のツアーの行く末をゆっくり見守ろう。

 

あーーーライブ行きたかったなーーー!!!

 

では(=゚ω゚)ノ