たなさと

バンドを語りたい、ただそれだけ。CDレビューやライブレポなどもするので一応ネタバレ注意

ゆつばばーんvol. 3 YUTSUBABA-N! NEW AUTUMN 2023

f:id:tana-boon:20231105233803j:image

25℃を超える夏日を記録した11月頭の三連休。その中日、大阪の福島2nd LINEにてライブイベントが開かれた。先取り邦ロックの遊津場(@sakidori_yutuba)主催、YUTSUBABA-N! vol.3 NEW AUTUMN 2023。関西の若手バンドを集めたオムニバス企画である。

出演者はGill Snatch、grating hunny、kokage、極樂万博、TALKY ONE-ROOM、握りしめた2円、ma℃ister、muk、riaの9組。残念ながら握りしめた2円がキャンセルになったが、新進気鋭の若者たちが鎬を削った。今回のレポートを通して、次世代を担うアーティスト達の熱いライブの模様、そして盛り上がりや熱狂が伝われば嬉しいと思う。

※写真は全て愛|AI SETOJIMA氏(@p__shima_)撮影

 

 

ria

f:id:tana-boon:20231112093821j:image

イベントの幕開けを飾ったのは、今年活動を開始したばかりの超若手バンドria。Vo.&Gt. 山本あおむし、Ba. 岡本翔、Dr. 山路アボカドからなる大阪のスリーピースである。

これだけのロックバンドが集まったイベントの一発目にはこれしかないというように、ギターの名前が冠された "Stratcaster" で火蓋を切って落とした。力強くかつ堅実などっしりしたリズム隊に支えられた透き通るハイトーンボーカルがどこまでも響く。

「また呼んでもらえるように」「最後まで幸せになって帰ります」という意気込みの通り、多彩な面々が揃ったこのイベントにおいて自分たちが楽しむことを突き詰めた情熱を感じる瑞々しいトップバッターアクトだった。

 

セットリスト

01. Stratcaster
02. 楽園
03. 5月のうた
04. グレーテル
05. カフネ

 

 

TALKY ONE-ROOM

f:id:tana-boon:20231113204128j:image

2番手は神戸のTALKY ONE-ROOM。Vo.&Gt. キシモトケイタ、Ba. あらたの2人にサポートドラムを入れた、こちらもスリーピースバンド。

riaとは対照的とも言える、ギターの音が鋭く空気を裂くソリッドなサウンド。シーケンスも駆使し、シームレスかつ重厚な演奏でスリーピースとは思えない強力なパフォーマンスを魅せてくれた。2曲目からインストゥルメンタルのトラックを持ってくるところにも演奏力への自信が見られる。

特別時間を取ったMCをせず、曲と曲の間に挨拶を挟む程度の形に留めてひたすら演奏を重ねた。青いストロボなどの照明も味方につけ、25分のライブ全体が一つの作品といったような完成度。演り切って残響を轟かせて帰っていった。

 

セットリスト

01. 昼下がり、波路にて
02. inst
03. Summer sink
04. 春を呼ぶ
05. (新曲)

 

 

kokage

f:id:tana-boon:20231112093958j:image

3番手は和歌山のバンドkokage。Vo.&Gt. ヒラサカ、Ba. 出口雄大、Dr. わっくんからなる3人組。「和歌山と言えばkokageしかいなかった」と遊津場氏は言う。

先の2組と同じスリーピースながら、暖色の柔らかい照明に包まれてミドルテンポのバラードから始めるという全く違った味を出した。情景が浮かぶストーリー性の強い歌詞を歌う実直さを軸に、しかし変拍子やテンポアップなどのギミックも随所に光る演奏で魅せてくれる。

メンバーの区別をつけるために誰が髪を染めるか問題を議論したラフなMCや、「色んな良いバンドが出ると思うんですけど、この25分間はkokageの時間ということで楽しんで帰ります」とはにかむ様子にも人柄が垣間見える。音楽性に違わぬ暖かさにアットホーム感が滲む、ある意味最もロックバンドらしいライブだった。

 

セットリスト

01. ねこばば
02. 水
03. それなりに
04. 未成年
05. 藍色
06. はんぶんこ
07. 下着

 

 

ma℃ister

f:id:tana-boon:20231113204146j:image

前半ラストの4番手はVo.&Gt. タニグチサクラとBa. 響愛の2人にサポートドラムを入れた、大阪のキラキラJKことma℃ister。

この日唯一のガールズバンド…という肩書きを添えるのも恐らく野暮なのだろう。「音楽に男も女も、年齢も関係ない」と言い切る彼女たちの音楽は、曲の長さも曲調も幅広く、しかしその中でストレートな想いが伝わってくる一貫した軸があった。若者らしい苦悩を散りばめながら、その気持ちを音楽に乗せてキャッチーに昇華させるセンス。「友達もいない、ここしか居場所がない」と悲痛に叫んで音にぶつける姿にも胸を打たれた人が多かったに違いない。彼女たちの信念通り、あらゆる属性を越えて心に響くライブ。前半トリ、あっという間に駆け抜けた。

 

セットリスト

01. ティーンエイジャー
02. ma℃isterのOPテーマ
03. レトロリネン
04. リライト
05. 酔生夢死
06. ガラス日常
07. 2006
08. たいやき

 

 

Gill Snatch

f:id:tana-boon:20231113204206j:image

約30分のインターバルを挟み、後半のトップバッターとして登場したのはGill Snatch。Vo.&Gt. ヒグチタクト、Ba. イチ・ザ・フリーク、Dr. Kota Shimizuからなるグランジバンド。既に関西以外でのライブも多く、話題になっている。

物々しいサウンドに攻撃的な歌声が2nd LINEの空気を一変させる。自然と身体を揺らし、拳を掲げる観客の存在が目立ち始めた。新曲を含む6曲をほとんどMC無しのノンストップで駆け抜け、轟音を撒き散らして演るだけ演って帰っていった。メンバーがいなくなってからも鳴り続けるノイズのインパクトは強烈。確立された自分たちの音楽を突きつけ、突き進む姿に「カッコいい」以外の感想が出ない人も多かったのではないだろうか。後半から一気に空気を変えたと思う。

 

セットリスト

01. W.I.P?
02. 九十九
03. Left
04. Cry B Cry
05. サニーサイドブルース
06. yudegaeru

 

 

muk

f:id:tana-boon:20231113204222j:image

6番手はこの日最後のスリーピース体制バンドmuk。Vo.&Gt. 秋本ユク、Ba. 旧支配者なかの、Dr. 長谷川ミュウツーからなる3人組。

初めに音出しより先にボーカルが前説をするバンドは少なくないが、彼らもその一組。秋本の「生まれた時からちょっとだけ寂しくて」「そういう人いると思う、そんな人の1、2時間後が笑顔になれるなら死んでもいい」という前置きから一気に感情を噴き出した演奏を始め、観客を惹きつけた。

赤裸々で過激に感情を綴った歌詞、どこまでが原曲でどこからがアレンジが分からない楽曲の構成。最後はマイクスタンドも倒れてアンプからもシールドが抜けるほどの大暴れをカマした。序盤で演奏した "処女作" を最後に繰り返したのも凄まじいインパクトである。

爆発力があるが、飛び道具的な音楽ではなく、大勢の人を巻き込む求心力が間違いなくあった。きっと自宅のベッドから出られない誰かを救う音楽になる。

 

セットリスト

01. サマーセッション
02. 処女作
03. 猫
04. 弾き語りの曲
05. 伊藤について
06. 処女作

 

 

grating hunny

f:id:tana-boon:20231112094155j:image

7番手、Vo.&Gt. スズキタ、Ba. 大黒雅水、Gt. があぁくせい、Dr. てつ、の4人からなるgrating hunnyは、今回の出演者の中では最も若い高校2年生。しかし、若さから来るものだけではない圧倒的なエネルギーをぶつけられた。

andymori銀杏BOYZ、THEE MICHAEL GUN ELEPHANTの名を挙げて音楽に出会った頃の自身を振り返り、「完璧にライブを終えるロックスターを観るうちに自分のことを嫌いになって、憧れよりも劣等感が大きくなった」「僕たちが完璧に演奏することで誰かに劣等感を与えてしまうなら、自分は完璧じゃなくてもいい」と熱い想いを滲ませる。があぁくせいはフロアに降りてくるし、大黒は基本的に白目を剥いているし、てつは登場から上裸だし。全員が感情剥き出しの初期衝動に溢れていた。

若いからとか高校生だからとかではなく、grating hunnyだから出来るライブだった。

 

セットリスト

01. 高槻
02. あいつの前で笑わないで
03. 終曲
04. 音楽準備室
05. 楽聖

 

 

極樂万博

f:id:tana-boon:20231113204240j:image

今年の閃光ライオットの決勝戦にも進出している実力者、極樂万博。Vo. 澤村ザクヲ、倫理奏、高木⭐︎マジカル⭐︎晃太郎、Gt. ドグラ・タカラ、響、Ba. ナマ・オカモト、Dr. 南無釈迦仏陀という滋賀の7人組。急に増えた。

「最初から最後までクライマックスですよ!」と煽り、手拍子、振り付け、合唱とあらゆる手で観客を巻き込む。ミラーボールも周りだし、人数の圧力も相まってフロアもステージ上も賑やかさが段違いである。元々ラストの予定であった握りしめた2円のキャンセルにより、図らずも急遽トリを務めることになったが、最初からトリだったかのように錯覚してしまう程の絢爛で堂々としたパフォーマンス。最後には主催者の遊津場氏をステージに上げて一緒に "ショートもロングもボブも好き" を再び演るというサプライズ演出も披露した。

f:id:tana-boon:20231113204258j:image

最早自分たちの企画だったかのような空気。最後の最後にフロア全体を笑顔に変えた彼らの実力は、期待を大きく上回っていた。

 

セットリスト

01. 極樂戦隊マハラージャー!
02. ショートもロングもボブも好き
03. ネクスト・ラヴ
04. ここにいるために
05. ショートもロングもボブも好き

 

 

8バンドが8通りの音楽で8通りのライブを魅せた。これだけいて、1組も被ったバンド、似た雰囲気のバンドがおらず、個性が光り輝いていた。遊津場氏が舞台裏で言っていたように、関西に留まるバンドではない。これからに期待が止まらない。

最後になるが、実は遊津場氏とは不定期にX(旧Twitter)のスペースにて最新の音楽情報を語らう仲で、謎に任命されたサブMCというポジションでお話させていただいている。そんな中、今回初めて彼のブッキングイベントに参加し、こうしてライブレポートも担当した。貴重な体験をさせていただいて光栄である。

引き続き、関西のライブシーンに今後も目が離せない。今回呼ばれた全アーティスト、そして遊津場氏の活動にこれからも注目だ。