たなさと

バンドを語りたい、ただそれだけ。CDレビューやライブレポなどもするので一応ネタバレ注意

炎炎ノ消防隊きっかけでも何でもいいのでKANA-BOONとPELICAN FANCLUBはセットでハマれ

f:id:tana-boon:20201205100313j:image

KANA-BOONとPELICAN FANCLUBのニューシングルが良すぎる。新曲じゃない。ニューシングル。新譜として、作品として良すぎる。

表題曲 "Torch of Liberty" と "ディザイア" はそれぞれ炎炎ノ消防隊のアニメのオープニングとエンディング。主題歌効果もあって両者それなりに再生回数も伸びている。

2つのシングルは同日にリリースされたし、"ディザイア" に至ってはKANA-BOONの鮪がプロデュースで携わっており、MVにも友情出演している。繋がりがすごい。レーベルも同じだし、ほぼスプリットシングルみたいなもんだと言っても過言ではない。アニメ盤のジャケットもリンクしてるし。

この2バンド、特にPELICAN FANCLUBは炎炎ノ消防隊きっかけで知る人も多いのかも知れないけど、ぜひKANA-BOONとセットでハマってほしい。というのも、両者ともに個人的に今最も歌詞を読みながら聴いてほしいバンドでして。互いの交流も深いし。

今回はこの2バンドを、ニューシングルを主に歌詞に注目してディスクレビューしつつ、抱き合わせて推したいと思う。

 

 

まずKANA-BOONの "Torch of Liberty" について。先立って公開されたMVを何回も観ていたが、改めてCDを買って歌詞を読みながら聴くと「そう言ってたんか」感がすごい。もう歌い出し1行目の『Fly &Fire 帰す快晴 救済唱歌』からすごい。Bメロの『遊覧船』と『揺らせ』は歌詞読む前から聞き取れてた。KANA-BOONらしい掛詞。

サビも、アクセントを置く音を「いだいいろのいとうで浮んだ影の音」「いだいいろのイトでそを照らせ そう」と全部ア段の文字で揃えてあり、音階もだんだん上がっていくからめちゃくちゃ駆け上がっていく感じがあって疾走感が強烈。

2番になると少しゆったりした縦ノリに変わるメリハリも良い。一方でここの歌詞の一部、絶対英語やと思ってた。『不意義』『雰囲気』とかどう聴いてもfreakyとかfakingとかやと思ってた。ホルモンかよ。

で、最後は『輝け延々と』と炎炎ノ消防隊に絡めたワードを投下して終わる。ヒロアカのオープニング "スターマーカー" でも「ヒーロー」と聴こえる『僕らの世界を広く』で締めてたし、からくりサーカスのオープニング "ハグルマ" では「サーカス」に掛けた『咲かすか枯らすか今』から歌い出してたし、タイアップ先をしっかり据えつつ力強く鼓舞する歌詞を構築するのがほんまにすごい。

 

2曲目の "センチネル" はツイッターで古賀さんが「KANA-BOONの新境地を感じられると思います。(聴いた方はびっくりしたのでは)」と言っていたので思いっきりシンセ使ってたりするんやろうかとか思ってたけど、いい意味で裏切られた。ゴリゴリの演奏に、シニカルな歌詞が新鮮。

最近、CDを聴く時は最初歌詞を読まずに曲調やメロディなどを感じ取って、次に歌詞を読みながら噛み締めるっていう聴き方をしてるんですけど、この "センチネル" を聴いた時、サビ前の「ナナナナ」みたいなところに歌詞があるなんて全く思わなかった。そうでしょ。サビに行く前の繋ぎとして長めに尺取ったオーイェーアハーンみたいなのだと思うでしょ。それがまさか『名無名無名無名無名無名無名無』という文字を充てているとは。ゲシュタルト崩壊したわ。

で、この曲は歌詞を読めば読むほど、週刊誌の報道、ネットの匿名性、SNSの自粛警察などを皮肉った歌なんじゃないかと思った。

『監視好きの亡霊』『声帯のない端子付きの奴隷』『言語の狂気』『元凶は正気失った魔女狩り』『言葉って声を超えてしまうものだね』など、どれも表しているものは一貫している気がする。先述の『名無…』も、「名無し」という意味なんじゃないかとか。

極め付けに、サビの『正しさまで奪って 何故笑って生きられるのさ』という問いかけ。サイレンみたいなイントロも、そんな世の中に警鐘を鳴らす的な意味が込められてるんじゃないかとか、妄想はどんどん膨らむ。

KANA-BOONも週刊誌の報道でメンバーを1人失ったと言っても過言ではないバンド。思うところは色々あるはず。それを歌で返すのがかっけぇなーと。

 

3曲目の "マジックアワー" は一転して "生きてゆく" "ダイバー" のようなキラキラした曲。イントロのリフ、他にも何かの曲で聴いたことあるような…

こちらは歌詞については特筆するところはなく、ただただ良い歌。一応別れの歌なのだろうか。あかんな全部めしだに繋げてしまうな。あかんあかん。

古賀さんが何度も撮り直したというギターソロはよく聴くとシンセが被せられてて、ほんまにキラキラしてる。綺麗な歌です。

 

"Torch of Liberty" "センチネル" では語感の良さを保ったままアニメの世界観や痛烈なメッセージをきっちり伝えるスキルを見せつけ、"マジックアワー" では不純物の無い澄んだ歌を届けてくる。シングル1枚でこんだけクオリティの高いことをしてくるのが今のKANA-BOONです。売れ始めた当初 "ないものねだり" や "フルドライブ" でバズり、「繰り返す歌詞が云々」言われ続けたの、鮪はずっと気にしてたんだろうなぁと思うよほんと。フェスで騒げたら満足の層はお引き取りいただいて結構なので、しっかり音楽を聴いてくれる人たちには是非とも今のKANA-BOONを歌詞に注目して聴いてもらいたい。

 

 

続いてPELICAN FANCLUBの話。こちらも、KANA-BOONに負けず劣らず。

"ディザイア" はサビの『抱いていたディザイア』『消したい災いが』『抱いていた現在が』『待っていた時代が』『生きているこの際だ』などの押韻が心地良すぎる。サビを通してずっと一切勢いが落ちないまま聴き切れる。Cメロの『甘い期待 ただ待っていた 淡い願い 漂っていた』なんかも見事。

PELICAN FANCLUBの歌詞って、世界観の構成もワードチョイスも韻の踏み方もマジで神がかっている。YouTubeでMVを観るに留まっていたペリカンをCD買うに至らせたきっかけの曲である "ベートーヴェンのホワイトノイズ" の『振り回されてふりだしに来て 振り回されていた』『心なしかどうかしていた 堂々巡り どうかしていた』の部分だったり、"Amulet Song" の『君の覚悟はどう?そこに確信もどう?』や『新時代とは何 信じたいと足掻き』だったり、そのカップリング "7071" の『なりたいようになれない なら太陽になりたい』だったり、メジャーデビュー作から "ハッキング・ハックイーン" の『家に帰ろう電子回路 キーボードに希望を』だったり、聴いていておぉってなるし、そもそもよくそんなの思いつくなっていう表現。

7071

7071

  • PELICAN FANCLUB
  • ロック
  • ¥255

ハッキング・ハックイーン

ハッキング・ハックイーン

  • PELICAN FANCLUB
  • ロック
  • ¥255

そしてこう並べて聴くと曲調の振り幅もエグいな…

過去曲の話に逸れすぎたが、詰まるところ "ディザイア" はその作詞センスに正統派なギターロックを乗せた、アニソンに最適ながらアニソンの枠に収まるべきでないレベルの出来だと思う。『火』『陽炎』『燃える』『煙』など炎炎ノ消防隊に準えた単語が随所に散りばめられてるのも流石。Dr.STONEのオープニングになった "三原色" もサビを『たして』『かけて』『ひいて』『わって』と四則演算の単語で構築してたし、タイアップ先の世界観に敬意を持って書き下ろしに落とし込むセンスはKANA-BOONに全然負けてないなと思わされる。

 

2曲目 "Day in Day out" は、歌詞の構成に感動した。MVも作られている。

最初歌詞を知らずに聴いた時はサビ終わりのところが語感やリズム感だけ聴いて好きだな〜とか思ってたんだが、歌詞を読んだら余計に。

全体を通して、「音楽」について歌った歌だな。1番で『静寂は騒音だ』→『騒音は音楽だ』、2番で『退屈は存在だ』→『存在は音楽だ』と異なるルートから音楽に繋げ、2番では『孤独は娯楽』とも語る。音楽を奏でることの人生における位置付けを語ってるような。そしてそれらの単語を最後に大サビで『静寂 騒音 退屈 存在 孤独 娯楽 音楽』と並べて総括するのがかっけぇ。

『次回 青いドラマ 期待したい』ていうフレーズもどうやって思いついたんだろう。青いドラマって何よ。でも俺らは間違いなくこのバンドの次回にも期待したい。

 

 

3曲目 "Gradually" は、始まった瞬間に「おっ」と思わされるエレクトロ仕様。

Gradually

Gradually

  • PELICAN FANCLUB
  • ロック
  • ¥255

Ba. カミヤマさんの作曲らしいけど、これひょっとして全編シンセベースか?

歌詞は、特徴的な押韻はないが『変化』がテーマの文学的な内容。歌い出し1発目『そして変化をする』から始まるのがすごい。一気に引き込まれる。これは先述の "ベートーヴェンのホワイトノイズ" も『結局人間が好きだった』から始まるから、エンドウアンリの得意な手法なのかな。ハンブレッダーズムツムロに言わせれば『国語の試験で書いたら零点の日本語』である。

『去年より 青い鉄塔は背が伸びたような』『大人の君の背も少し伸びたような』

『去年より この地球は暑くなったような』『少しだけ君は冷たくなったかな』

と、スケールの違う「世界の変化」と「君の変化」を対比させて並べる感性はほんと小説家のそれ。

何よりこれで曲名を「変化」とかにせず、しかも逆に "Gradually" の直訳である「段々と」「徐々に」などのワードが出てこない。マジでどんな考え方で歌詞書いてんだろう。

 

PELICAN FANCLUBはメジャーデビュー後にCDを書い始めたのでインディーズ自体の作品はリード曲ぐらいしかまともに聴けてなくてですね。聴けば聴くほど他の曲も歌詞に注目して聴きたい気持ちが大きくなっているので、早いうちにどんどん旧譜に手を出していきたい。

 

 

こんな感じでKANA-BOONとPELICAN FANCLUBって、似たような才能が光ってる気がして、フィーリングが合って仲良くなるのもわかる気がするんだ。どちらも、メッセージ性も勿論だけど、韻の踏み方や言葉遊びのセンスが天才すぎる。

KANA-BOONとPELICAN FANCLUBの交流は前々から深く、遡れば去年も対バンが予定されていた。めしだ失踪の余波でなくなってしまったが。逆に言うと、そんなことがあったにもかかわらず、関係が続いていると言うことはよっぽど普通に仲良いんだろうなと。

楽曲の何に注目して聴くかは人それぞれだが、語感の良さや語彙力の文学性を重視する人は是非ともKANA-BOONとPELICAN FANCLUBは両方聴いてほしいと思う。この2バンド、死角なしです。

 

では(=゚ω゚)ノ