たなさと

バンドを語りたい、ただそれだけ。CDレビューやライブレポなどもするので一応ネタバレ注意

ゲスの極み乙女。「ストリーミング、CD、レコード」の歌詞の英訳が興味深い

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ゲスの極み乙女。の新しいアルバム、「ストリーミング、CD、レコード」。めちゃくちゃ名盤。相変わらず川谷絵音の才能が枯れる気配が無い。テレビもあんだけ出てて、indigoの方もアルバム制作中で、マジでどうなってんだあの人。

で、このアルバム、バームクーヘン盤を出した事でも話題でほんまに面白い作品なんやけど、作品を手に取ってみて面白いなと思ったのは歌詞カード。

全曲の曲名と歌詞について、英訳されたものが一緒に載ってある。HIATUSやMONOEYESなどの細美バンドだったり、マンウィズだったり、ナッシングスだったりみたいに、英語詞の和訳がついているのはよくある事やけど、日本語詞の英訳って面白いなと。誰が注目して読むんこれ。

僕は読み込みました。

読んでみたら面白かったんよ。意訳もいいところ。英語が滅茶苦茶というわけではなくて、その日本語がその英文になんの!?みたいな表現が多くて興味深かった。

英訳が印象的で面白かったものを何曲かピックアップして語っていきたいと思う。

 

 

人生の針 → The Record of Life

まず針がRecordってので感動した。needleじゃなくてRecord。レコードの針の事だったのかと。ここでちゃんとアルバム名回収してくる。

サビで出てくる『人生の針』というフレーズに対応する英訳もrecordを使っている。2番のAメロにはまんま『レコード』という単語が出てくる。対訳もrecord。

で、面白いのが、最後の『私に優しく針を落として』だけ『I'm waiting for you drop the needle onto me』と突然needleを使っている。「針を落とす」なんて一番レコードを想起させるフレーズを使ってるのに、ここの対訳だけ逆にrecordを使わない。

一曲目から川谷絵音の考える事は分からない。でも絶対意識して使い分けてると思うんよな。真意は分からないけど「ストリーミング、CD、レコード」というアルバムのリードトラックに相応しい楽曲だと思う。

 

 

秘めない私 → Visible Me

この曲に関してはもう歌詞自体が日本語でも意味分からんのだが。

一番理解できないのがBメロの

グーパーグーパーグーグーパー
あなたはチョキグーチョキグーチョキチョキグー

という歌詞。これの対訳が

Yes, no, yes, no, yes, yes, no
Then you go no, yes, no, yes, no, no, yes

になってる。

言わずもがなじゃんけんのことってのは分かるんやけど、前半と後半で勝ち↔︎負けとyes↔︎noが対応してない。なんでグーとパーでグーがyes、パーがnoなんだ。なんでそれなのにチョキとグーならチョキがnoでグーがyesなんだ。グーをyesで統一したいのか?

つくづく考えてることが分かりません。

あとは、1番に限れば、サビで『秘めない』→『I can't hide』、『噛みたい』→『Wanna bite』と日本語でも英語でも韻踏んでるのが面白い。

とりあえず遊び心が全面に押し出されてるということなのか、もっと深いところで込められた意味があるのか…

まぁなんせ好きです。

 

 

哀愁感ゾンビ → Melancholic Zombie

歌詞全体としては言葉量は少なめ。

気になったのは1番の

苦しい
苦しくない

悲しい
悲しくない

2番の

眩しい
眩しくない

汚い
汚くない

というフレーズ。単にそれぞれ反対の文章を羅列しているような歌詞やけど、英訳を見ると

Can't breathe
But then I can

I'm sad
But then I'm not

It's bright
But then it's dark

It's dirty
But then it's clean

といずれも『But then』で繋げている。肯定と否定の並列ではなく、肯定からの否定、とすることによって心情の変化とかストーリー性を出してるのかな。真意が何であれ、英訳がなければすることなかったであろう考察である。

あと『リャンメン待ち』はマジで入れてきた意図が分からん。

 

 

ドグマン → Dogman

全体的に意訳だらけなんやけど、この歌は二番Aメロの

失敗しない医者は必要で
失敗を笑う他者は必要ない

て歌詞が好きで。しかもこの部分は英語でも

We need doctors who don't make mistakes
And we don't need people who laugh in their face

と比較的直訳に近い表現になってる。分かりやすい文章にすることで、曲解されることなくストレートに伝えたいと思っている内容なのかも知れない。

MVが公開されたのは2年前やけど、皮肉にも匿名で批判する人間の多すぎる今の日本に必要な意識だと思う。迅速な対応ができる医療関係者と政治家は必要だけど、何かある毎に揚げ足とって嘘を垂れ流すメディアは必要ない。一切必要ない。

 

 

透明な嵐 → Invisible Storm

透明な嵐

透明な嵐

ここに来て「Invisible」という単語。否が応でも "秘めない私" の「Visible」が思い出される。この2曲がそれぞれ2019年の5月、7月に続けてリリースされた配信楽曲であることからも、恐らく関連はあるのだと思う。「透明」を単純に英訳するのならTransparentとかでいいはずやし。敢えてVisible↔︎Invisibleという対義語を引っ張ってくるあたり、絵音は絶対考えてやってる。

 

 

フランチャイズおばあちゃん → The Franchise Mama

なかなか強烈なタイトルやけど、英訳を見ていくとまずはなんでおばあちゃんなのにMamaなのか。

『僕はまだあなたがいると思える』『天国で聴いてよ僕のおばあちゃん』といったフレーズからは、亡き祖母への想いを綴った歌のように思えるけど、一方で『中身まで全部同じなら また姿勢注意してみてよ』『ばあちゃんが言ってたこと 些細なことでもコピーしたい』などのフレーズや、何よりフランチャイズというワードチョイスから、生まれ変わりとかクローンみたいなテーマも浮かぶ。

気になるのが、『ばあちゃんが言ってたこと 些細なことでもコピーしたい』の箇所だけ『ばあちゃん』と言っていること。他の箇所は全部『おばあちゃん』。さらに英訳と対応させると、『おばあちゃん』は『Mama』と言っているのに、この『ばあちゃん』だけ『the old lady』と急によそよそしい表現になる。何なら『ばあちゃん』の方が砕けた言い方なのに。何かしら考えてやってるとは思うんやけどわかんねぇな…

 

 

特に印象に残ったのはこの辺の曲かなぁ。

もちろん他にも、"私以外も私" がなんで "Don't Call Me Honey" になるんや、とか、

"綺麗になってシティーポップを歌おう" がタイトルの英訳は "Let's Get Pretty and Sing City Pop" やけど歌詞中の全く同じフレーズの英訳は "Put on some make-up, sing a city pop tune" になってて、何が違うんやろう、とか、

"蜜と遠吠え" は直訳したら「Honey and Howling」になるはずやけど "Howling for Honey" になってて、「蜜」と「遠吠え」の関係性が分かりやすくなってるな、とか。

こんなところかな〜。細かいの挙げ出したらキリない。

 

とりあえず思うのはやっぱり川谷絵音は天才だなと。多分この英訳も自分で考えてるんじゃないかな?クレジット見ても見当たらなかったけど、曲を書いた本人にしか分からない真意が含まれた意訳になってる気するんよな。

この英訳で歌ってる英語バージョンとかあったら面白いな。思いっきり意訳なのも、もしかしたら英語でも原曲のリズム通り歌えるように音数合わせてたりして。

 

最後まで読んでくれた人いるんかな今回。元ネタの歌詞見てないと全く意味分からんかったと思うぞ。けどまぁ、普通に手に取ってもらいたいなと思う。んで対訳と照らし合わせて読んで楽しんでほしい。

配信もされてるけど、やっぱりこのご時世にここまで歌詞カードに労力かけてるCDは多くの人に手に取られてほしいなーと思います。是非。

 

バームクーヘンも美味しかったです。

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では(=゚ω゚)ノ